附属端艇部通信第24号

引退するスタッフから

114回 近藤清太郎

ヘッドコーチを務めました114回の近藤清太郎です。
今年の開成レースも何とか勝つことが出来ました。レースは五分五分の展開で進み、最後は半艇身差での勝利でした。近年は差をつけて勝つことが多かったので、ハラハラした先輩方も多かったと思いますが、私としてはほんの1ミリでも先にゴールできれば勝ちは勝ち、どんな展開でもとにかく勝つことをクルーに言っていたので、満足しています。もちろん前半で前に出て後半も失速せずにゴールできるほうがかっこいいかも知れませんが、ボートは陸上などと違って相対的に勝負が決まるスポーツ。特に対校戦でシビアなところは、そこにいたる過程よりもやはり結果が最終的には歴史に残ってしまうところです。しかし、結果をとにかく出さなければいけないからこそ、やっている本人たちにとってはそこに至る過程はより濃密で激しいものになるのではないでしょうか。ボートは普段の練習からつらいことが多いので自己満足で終わってしまいやすい。しかし、2年間附属でボートを漕いで、対校に乗って、「勝ち負けではなく過程が重要だ」なんていうのは少し甘っちょろい気がします。附属が他の高校の端艇部と違っているのは、目標がインターハイなど順位のつくものではなく、当日1回きりのレースで勝つか負けるかのレースであるところであり、だからこそシビアな自己研鑽・規律が求められるところが素晴らしく、そして厳しいところだと思っています。

事実、ラストの半艇身をつけるために対校クルーがどれだけつらい練習をし、コーチに怒鳴られ、筋肉痛やケガと闘い、悩み苦しんだか。当日の祝勝会で黒川のスピーチを聞いた方は察しがつくかと思います。特に今年のクルーは2月から3月にかけて、(今だから言えますが)「今年はだめか」と思うほどの長いスランプがあり、私としても「君らはもっとできる」といい続ける一方、熱くなって激しい罵声を浴びせたこともありました。そんな中、一つ一つのモーションを内容は芳しくないにしろ本当に真摯に取り組み続けたクルーは、そこに彼らの最大の才能があったと思いますし、クルー結成からのモーションのうち一つでも適当にやっていたら今回の勝利はなかったかもしれないと思うと、なんだか不思議な感じがします。自分の弱点としっかり向き合った石塚、内面の苦しさをチラとも見せなかった黒川、怪我でも休まなかった鉄人・寺嶋、猿人・エンジン・変人三拍子揃えてクラブに不可欠な存在だった行川、そして寡黙なようでクルーの本質を捉えていた隈部。対校クルーとして酸いも甘いも味わって大きくなったと思います。
また、確かに一番大きなプレッシャーを感じるのは対校クルーですが、彼らを支え、また成長させたのは残りのクルーであったことは言うまでもありません。特に3年生で対校に乗れなかった小田と二見は、自身のクルーを鍛えて対校にプレッシャーをかける一方、ふがいない艇速しか出せないスランプ期の対校に対して本気で憤っていたのは良く覚えています。彼らは対校独特の厳しい状況は経験しなかったかも知れませんが、僕の指導から早く離れた分、自分で考えて行動するという一番大切なことを学んだと思います。また、現在規模が拡張しつつある附属においてクラブとしての統一性というものにより関心が払われるなか、彼らの働きは今回の勝利に不可欠だったと言えます。

さて、長くなりましたが、これもコーチとしての2年間にかけた思いがそれなりにあったというふうに理解してもらうとうれしいです。実は当初、週3回戸田に通うのが本当に苦痛でした。そこで失ったものも少なくないとあえて言いましょう。しかし、私や林にしっかりとついて来てくれる選手の姿に気づいたとき、徐々にやりがいに気づけるようになってきました。そしてこの4月、重圧を感じながらも戸田に来ることが楽しみになっている自分に気づきました。そういう意味ではコーチを信じてついてきてくれた選手にまず感謝しなくてはなりません。そして、事故関連で大変ご迷惑をおかけした瀬井さんをはじめ、森井さんや現役時と変わらずアドバイスをくれた若手の先輩には本当に助けられました。ありがとうございました。

この2年間、附属の縦のつながりというものを考えさせられることがよくありました。それは時には重圧になったり煩わしくなったりします。特にOBに成り立ての頃はそういう気持ちは誰にでも少なからずあるのではないかと思います。しかしこういった関係は誰しもが得られるものではなく、私が附属端艇部の一員として素晴らしい経験を出来たのもそういったつながりが連綿と続いてきたからに他なりません。そういう意味で、今後は後輩がいち早く桐漕倶楽部の一員という気持ちを持てるような橋渡しをしていけたらいいと思っています。それではまた戸田でお会いしましょう。

114回 林 裕真

コーチを務めました114回の林裕真です。今年の対校戦はほぼ全種目で勝利を得ることができました。これは附属端艇部としての総合力の高さを示していると思います。117回7人、118回11人と部員も大幅に増え、コーチ陣が全艇を常時見られる状況ではない中でも、ここまで成長してくれてうれしく思っています。

1月のクルー結成時から、私は対校ダブルのコーチを務めました。当時は二人とも1年生で、なかなか最初は漕ぎが合わずに苦労しました。体で、蹴りで教えてくれる上級生はいません。私自身も、コックス出身のコーチということもあって、悪い点、改善点は指摘できるものの実際の感覚としてどう改善するかを教えることは難しい状況でした。そこで、二人には自分の漕ぎを自分で見つめ、分析してほしいと考えました。毎回「(今の漕ぎは)どうだった?」と声をかけ、二人の声を聞きました。その甲斐あってか、二人は私が見て良いと思った漕ぎにも妥協せずに問題点を見つけ出すなど、自分たちの漕ぎを見つめることができるようになりました。毎回の練習後につけるミーティングノートでも、普通クオドのクルーが四人で語った言葉が1ページに収まるほどなのにもかかわらず、小山と田中は二人だけで1ページを埋め尽くすほどの言説を尽くして自分たちの漕ぎを語ってくれました。そして事実、二人は速くなりました。技術も上達しました。他校の艇と並べても遜色ないレベルになりました。そのことが何よりの幸せです。

2年間コーチを務めて、辛いことも苦しいこともたくさんあったでしょう。しかし今となってはそんな記憶も朧げでしかありません。冬の雨の日の自転車での伴走は寒くてしんどかったな、位です。しかし、うれしかったこと、楽しかったことは覚えています。振り返ってみると、コーチをやってよかったな、と思います。

今年も端艇部は大盛況なようなので、うかうかしていると119回生を覚えられなくなってしまうかもしれません。なるべくそんな事態は避けたいと思います。今後とも附属端艇部とはかかわりを持ち続けていきたいと思います。

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